在スイス 神谷未夏発 コロナワクチン接種の体験談

私はこの春57歳になる予定ではあるが、持病があるため、「第一グループの資格がある」と判断され、グループの最後の方に入れていただけたようで、2021年1月29日、1回目のワクチン接種に行ってきた。

接種の優先順位

私の住むスイスのThurgau州では、今回のCOVID19に対する接種の優先順位は
①75歳以上またはリスクのある持病を持つ人
②医療従事者
③老人や病人の介護などをする個人となっている。

これまでインフルエンザのためにも接種は一度もしてこなかったから、予防接種を受けるのは子供の時以来である。

今晩はお風呂入らない方がいいだろうな。

スイスの高いシステマティックな管理体制

スイスは何事においてもかなり「きちんと」した国で、大変過ごしやすい場所として安心も信頼もして長年暮らしているが、今回の接種を通じて、その高いシステマティックな管理体制に改めて感心した。

前回の定期検診でも「スイスで接種が始まったら、あなたの優先順位は結構早い方になります」とは言われていた。

スイスではクリスマス頃に接種が始まったようだったが、お正月気分も終わった1月の中頃に、25年間かかりつけているホームドクターのアシスタントから「あなたが申し込める順番になりましたよ」と電話がかかってきた。

州の保健局サイトから情報の書き込み

夜仕事から戻った主人とともに、今一度よく話し合い、接種を受けることに決め、州の保健局のサイトから情報を書き込み、質問事項に答え、夜中にクリック。

翌朝目覚めた時にはもうすでに私の携帯に1回目は1月29日(申し込みから10日後)2回目は2月26日(1回目から4週間後)というショートメッセージが入っていた。

身分証明書と保険カードを持って「必ず時間通りにくるように!」とある。

その上昨日も携帯に「明日はお忘れなく!」のお知らせがきた。

未知のワクチン接種にドキドキ

持病があることもあり、医療関係の場所に行くのは慣れているが、久しぶりの予防接種なのと、未知のワクチンということで少しドキドキしている自分に気づく。

ドキドキを抑えるつもりで15分、歩いて現場に向かった。緊張のためか途中寄るつもりだった郵便局での用事なども忘れてしまい、予定より20分も早くついてしまった。

昨年10月に不本意にもコロナにかかってしまった時、そのチェックのためのPCR検査の際にも、他の人との交わりを避けるためもあり「必ず時間通りに来るように!1分早く遅くもダメ」というのが、とても厳しかったこともあり、あまり興味もないポスターなどを読んだりして時間を潰すが、人の波を見計らって呼び出し時間の10分前ではあったが中に入った

接種専門の大きなテントで受付

私の住む州都のメインステーションのすぐ近くにある大きなミリタリー広場には、数週間前サーカス小屋のように接種専門の大きなテントが建った。

その入り口でまず受付。(セキュリタスという警備会社みたいな人が担当。10分早くきても怒られることもなく笑顔で迎えられる。)

好きな場所に座って、今日の体温や症状、既にコロナになったことあるのか否か?妊娠やアレルギーに関する質問アンケートに答えを書き込み、呼び出しを待つように言われる。

テントを入ってすぐの小さめの体育館のような広さのところに椅子が必要数の倍くらい点在している。椅子は一つだったり二つがくっついていたりするので、一人で行った私は一人分だけで独立している椅子に座った。

医療現場でのアジア人の活躍

アンケートを書き終わるや否やというタイミングで韓国人(でもスイスドイツ語ペラペラ)の看護師さんに、テントの中にあるコンテナに呼び入れられ、再度彼女の問診を受ける。

(これはアンケート用紙の内容の再確認といったところ)その後奥のコンテナに移動。私に直接注射を打った人も、多分オリジナルはアジア人らしき男性だった。

(こちらも完全にネイティブスイスドイツ語を話した)医療現場でのアジア人の活躍が多いのに驚いたし感心した。

注射は一瞬に終わり、後は貴重な社会見学の場に

「利き手でない方の腕をまくって、いやあなたの洋服の場合、まくるよりも肩から腕を出して」と言われて、そのようにする。

さっと消毒して細い針をすっと刺す。あっけないほどすぐに一瞬で終わってしまった。でもこれを打った時間がまさに指定された時間ぴったりだったので、少し早く行ったのは正解だったのかもしれない。

さっき入ってきたのとは別の、コンテナの後ろの方の出口から出ると、別のセキュリタスの係が待っていて、私が看護師さんから渡されて持っていたカルテを受け取り「15分座っているように、また容態が悪くなったらすぐ申し出るように」と言われる。

最初の受付と同じような広くて温度調整のきいた、テントの中とは思えぬ快適なところに点在する椅子には、やはり椅子の半数くらいのおよそ20人の人がいる。皆さんご老体ばかり。

付き添いというか介添を連れてきている人もいたが、介添えの人々は椅子には座らずしゃがんでご老体の膝をさすってあげたり、優しく「大丈夫?」と話しかけている。

私のように若い(?)人はその時間帯にはもうあと1人しかいなかった。

私は待っている間、「これは貴重な社会見学のチャンスだ」と思い、全体が見渡せるところに座った。

一人でいらしているご老体はやはり心細いこともあるのだろう。なんとなく表情が暗い。

退出許可の呼び出しコールで何度もフルネームを呼ばれているのに返事をしない人がいた。4度目くらいに気づいて立ち上がろうとしたけれど、かなりぼんやりしていらしたのか、そのときにもめまいがしたらしく、しっかり立てないでふらつくおじいさんがいて、セキュリタスの人がすぐ駆け寄った。もう一人別のおばあさんが、ちょっと恥ずかしくなるような甘え声で「私、なんだか具合が悪いみたい」と言って係員に詰め寄り、医者のいるコンテナに入っていった。(でもそのおじいさんもおばあさんもその後元気そうに係員とおしゃべりしていたので、多分あれは気分の問題だったのではないか…と)

私は名前を呼ばれて、近寄ってきた白衣のおじさんに「体調大丈夫?帰れますか?」と訊かれたけれど、その時は何の変化も感じなかったのでスムーズに退出を許可された。

通ってきた道は二度と通らないような、一方通行が徹底しているシステムだった。

ちょっと腕が重く感じる

テントを出て、その足で歩いて5分のところにある音楽学校に行き、ゆっくり一息しようと思っていたが、いつもよりなぜだか30分も早く来ている生徒がもうそこにいたので、彼女のやる気に押されてすぐにレッスンを開始した。

生徒と二人でバッハのドッペルコンチェルトを弾いているときに「あれ?ちょっと腕が重い感じかなぁ」ということに気がついた 程度。

その後4人ほど教え、家に帰ったが、今のところちょっと腕が痛いくらいで気持ちは元気。2回目は4週間後にある。

私が打ったのはモデルナというワクチン。夫に報告すると「高明なるファイザーワクチン」でないので少し残念そう。でも「私はブランドにこだわる人じゃないし、チャールズ皇太子でもなく、ロジャーフェデラーでもないあなたと結婚したけど最高に幸せよ」と言ったら納得したようだ。

後日談

翌朝目覚めると体が異様にだるい。熱を測ると37度5分。午前中ズームミーティングがあったので気力で乗り切るが、昼前に横になる。

腕の痛みもひどく寝返りは打てないし、熱もどんどん上がってきている感じがする。

24時間後の時点で38度5分にまで上がっていた。

「このような現象は次の三日間に起こりうる」と接種後の注意書きに書いてあったのであまり心配もしないが、痛いのが我慢ならないので、

これまた注意書きにあったように「パラセタモル系の痛み止め」を服用。

夜中に汗が出て着替えて。すると冷えて、湯たんぽして、また汗出しての繰り返しで朝には平熱に戻る。

スケジュールに余裕を持って接種を

ただいま接種から48時間後。

二つ目の痛み止めを飲んでも接種した時はなんでもなかったにも関わらず、打った場所の腕の痛みだけが今なお少し残っている。

でもこの後日談を書くくらいの元気は出てきたので明日には日常に戻れると思う。

というわけで、接種後無症状の方々も多いようではあるけれど、万が一私のようになってしまったりそれ以上ひどくなる可能性も考え、パラセタモル系の痛み止めを用意しておいて、2、3日のスケジュールに余裕を持って接種にのぞむことをお勧めする。神谷タンナー未夏

 

神谷タンナー未夏

在ヨーロッパ34年のヴィオリスト。ドイツ・フランス留学後オーケストラ入団を機にスイスへ来てもうじき28年半。

現在はフリーの演奏家としてソロ・室内楽・オーケストラでの演奏、後進の指導をしている。25歳(男)と16歳(女)の母。

2002年、在スイス・ケアチームジャパンの立ち上げメンバーで、2014年まで在スイス日本人相互支援ボランティアを実現するスイスナルク代表を務める。